日本の病院経営のリアル
NHKニュースウェブに2025年3月13日の日付で「全国6割以上の病院が赤字 調査団体『地域医療は崩壊寸前』」というニュースが掲載されています。日本の病院の過半数が赤字であるという話題は以前から取り沙汰されていましたが、今年に入ってから、さらに深刻な状況が多くのメディアで取り上げられています。いくつかの調査によれば、概して6割から7割の病院が赤字であり、その割合は増加傾向にあります。なぜこのような状況になっているのか、そして、それでもなぜ病院が運営を続けられているのか疑問に感じませんか?
病院の経営という問題を考えるにあたって、まず「診療報酬」という言葉を知っておく必要があります。これは、病院が患者に提供した医療サービスに対して受け取る代金を点数で表したものです。日本では、診療報酬は国によって定められており(つまり公定価格)、病院は自ら提供するサービスの価格を決定する権利を持っていません。診療報酬は原則として2年おきに更新されますが、そもそも、この診療報酬の配点のされ方がコストに見合っていないのではないかという指摘も聞かれます。そこへ、さらに昨今の物価上昇が追い打ちをかけています。たとえば、薬品や材料が値上がりすれば、おのずと病院が負担する経費は増えます。しかし、診療報酬は決まっていますので、経費が増えた分は病院が負担せざるを得ないということになります。

医療をめぐる日米関係
医療に関する話題は、とかくローカルな問題として扱われがちであり、外国の事情などはあまり知られていません。しかし、日本の医療は、実はアメリカの医療と浅からぬ関係があります。たとえば、病院から受け取った明細書の中に「DPC」という文字を見かけたことはありませんか? これは、病院経営の効率化を図るために導入された制度であり、アメリカのDRG制度を参考としたものです。
日本のDPC制度は、「この疾患でこの処置を行った場合の診療報酬は何点」というように、疾患と処置の組み合わせ毎に診療報酬を細かく定めたものです。ちなみに、診療報酬の1点は10円に換算されて請求額が計算されています。
このような制度を「包括払い制度」と称し、診療内容の標準化や、それによる医療費の抑制が期待されています。なお、日米の両制度には違いがあります。まず、包括分類のコード体系が異なるほか、包括計算の単位も異なります。日本のDPCは一日あたりの計算であるのに対し、アメリカのDRGは一入院あたりの計算となっています。

医療機器大国アメリカ
実は、アメリカが世界最大の医療機器の輸出国であることをご存知でしょうか。もちろん、日本にとって医療機器の最大の供給国はアメリカであり、総輸入量の約3割を占めています。
特に、先端医療を支えるための高技術・高精度な製品が多いです。たとえば、MRIやCTスキャナーなどの画像診断機器、心臓ペースメーカーや人工関節などの治療機器、血液分析装置や遺伝子検査装置などの高精度な検査機器のほか、先端医療に欠かせないカテーテルや手術用ロボットなどの高度な治療機器も、多く輸入されています。
このような先端医療に用いられる機器や材料は、当然ながら、いずれも相当高額なものです。

データ出典
- “全国6割以上の病院が赤字” 調査団体「地域医療は崩壊寸前」 | NHK | 医療・健康
- 首相官邸『「世界の中の日本」の視点から、国家の成長戦略として「グローバル医療機器社会実装化選択集中プロジェクト」と「世界レベルの電子カルテ開発プロジェクト」の提案』2023年6月23日:chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/sanyokaigou/dai22/siryou2-3.pdf
執筆者プロフィール 伊藤 ゆみ データコンサルティング部部長、データサイエンティスト。統計学、社会調査法、多変量解析、機械学習、自然言語処理を専門とし、情報処理分野において30年以上にわたり実務に携わる。広告業界でキャリアをスタートし、総合広告代理店、大学研究機関、金融機関、大手SIer、テレビ放送会社を経て、2024年4月より現職。データ分析、AI導入支援、DX推進に関するコンサルティングに従事。東京都出身。
