3. 米国の医療保険制度の中心は民間保険

アメリカにおける医療保険の種類別加入率

 アメリカでは、医療保険の仕組みがとても複雑で、すべての国民を対象とした単一の制度はありません。人々はそれぞれの状況に応じて、さまざまな保険に加入しています。
 2023年の時点では、全体の65.4%(約2億1,680万人)が民間の医療保険に加入しており、その中でも雇用主が提供する健康保険(Employer-Sponsored Insurance:ESI)が最も多く、53.7%(約1億7,820万人)を占めています。これは、企業が従業員のために契約する保険で、アメリカでは最も一般的な保険のタイプです。
 一方、政府が運営する公的医療保険には、36.3%(約1億2,040万人)が加入しています。そのうち、高齢者や障害のある人を対象としたメディケア(Medicare: 連邦制度)が18.9%(約6,255万人)、低所得者向けのメディケイド(Medicaid: 州・連邦共同制度)は18.9%(約6,270万人)となっています。
 それでも、医療保険に加入していない人も一定数おり、無保険者は全体の8.0%(約2,644万人)にのぼります。こうした人々は、病院にかかる際に高額な費用を自己負担しなければならず、医療へのアクセスに困難を抱えているのが現状です。

2023年 アメリカ合衆国における健康保険加入状況(米国国勢調査局|米国商務省)

民間医療保険のプログラム種類

 アメリカの医療保険制度は、主に民間の保険会社によって支えられています。その中でも、多くの人が利用しているのは、会社を通じて加入する保険と、自分で申し込む保険の2つのタイプです。
 雇用主が提供する健康保険(ESI)は、企業が従業員のために用意するもので、保険料の一部を会社が負担してくれるのが一般的です。このため、従業員にとっては比較的負担が少なく、利用しやすい仕組みになっています。
 一方、自分で保険に加入する場合には、主に2つの方法があります。ひとつは「保険の取引所(Marketplace)」という政府が運営するウェブサイトを通じて申し込む方法で、もうひとつは、保険会社のウェブサイトなどから直接申し込む方法です。
 特に「保険の取引所」を利用する場合は、収入に応じて国から補助金を受けられることがあり、保険料が割引されることもあります。そのため、収入が少ない人にとっては、保険に加入しやすくなる大切な選択肢となっています。

雇用主が提供する健康保険(ESI)

 雇用主が提供する健康保険(ESI)は、企業が従業員の福利厚生として用意する保険で、本人だけでなく扶養家族にも適用されることがあります。保険料は企業と従業員が分担し、会社の規模や業種によって内容や負担額に違いがあります。
 主なメリットは、保険料が比較的安く、提携医療機関での受診がしやすいこと、そして税制上の優遇がある点です。ただし、転職や退職の際には保険の継続が難しくなることがあり、COBRA(コブラ)という制度を利用することもあります。これにより、退職後も一時的に会社の健康保険を自己負担で継続できます。
 ESIはアメリカの医療制度の中心的な仕組みであり、特に中間所得層の医療アクセスを支える重要な制度となっています。

データ出典

執筆者プロフィール 伊藤 ゆみ データコンサルティング部部長、データサイエンティスト。統計学、社会調査法、多変量解析、機械学習、自然言語処理を専門とし、情報処理分野において30年以上にわたり実務に携わる。広告業界でキャリアをスタートし、総合広告代理店、大学研究機関、金融機関、大手SIer、テレビ放送会社を経て、2024年4月より現職。データ分析、AI導入支援、DX推進に関するコンサルティングに従事。東京都出身。