公的医療保険の日米格差
アメリカの医療制度は、日本とは大きく異なります。ご存知のとおり、日本は「国民皆保険制度」のもと、すべての国民が何らかの公的医療保険に加入しています。医療費の自己負担は原則3割で、さらに高額医療費制度が整備されています。
一方、アメリカでは、公的医療保険はあくまで社会的弱者の保護を目的としたもので、その対象は高齢者や低所得者層などに限定されています。そのため、国民の多くは民間の商業保険に加入するしかなく、医療費の自己負担も日本に比べて高額になる傾向があります。

米国の公的保険と民間保険
アメリカの公的医療保険は主として二つあります。一つは、『メディケア』で、65歳以上の高齢者と特定の障害を持つ者を対象とした連邦政府の健康保険プログラムです。もう一つは、『メディケイド』は低所得者向けの健康保険プログラムであり、連邦政府と共同で各州政府が運営しています。
どちらにも該当しない大多数のアメリカ人は、民間企業が提供する医療保険に加入しています。米国国勢調査局によれば、2023年には国民の92.0%が年間の一部または年間を通じて健康保険に加入しており、同時に民間医療保険の加入率は65.4%となっていました。
ちなみに、民間医療保険にはいくつかの種類があり、それぞれ保険料や補償範囲が異なります。また、65歳以上の高齢者でも『メディケア』だけでなく、民間医療保険を組み合わせて補償内容を補完するのが一般的です。このため、保険契約が非常に複雑で、保険料や補償範囲が人それぞれに大きく異なります。

米国の『病院価格透明性規則』
アメリカでは、医療費の透明性を高めるために『病院価格透明性規則』という法律が導入されています。この法律は2021年1月1日に発効し、アメリカ国内で運営されている病院は、価格情報を公式ウェブサイト上で公開することが義務づけられています。その背景には、病院で提供される医療サービスの料金が不透明で分かりにくいという現状があります。患者が診療を受ける前に医療費を把握し、サービスや病院を比較検討できるようにすることが目的です。
これに対し日本では、どういう疾患でどういう処置をするかがわかっていれば、だいたいの費用はわかりますし、自己負担率も一律です。しかし、アメリカでは、保険契約の内容によって自己負担額が大きく異なるため、日本のような標準価格というものが存在しません。法律の導入により、医療費の不透明さが解消され、患者がより良い選択をできるようになることが期待されています。
しかし実際には、価格情報が不十分であったり、わかりづらい形式でデータが提供されていたりして、完全な透明性が確保されているとは言い難い状況です。

データ出典
- Health Insurance Coverage in the United States: 2023 | United States Census Bureau(米国の健康保険適用範囲:2023年|米国国勢調査局):chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www2.census.gov/library/publications/2024/demo/p60-284.pdf
- Hospital Price Transparency | CMS.gov(病院の価格透明性|メディケア・メディケイドサービスセンター):https://www.cms.gov/priorities/key-initiatives/hospital-price-transparency
執筆者プロフィール 伊藤 ゆみ データコンサルティング部部長、データサイエンティスト。統計学、社会調査法、多変量解析、機械学習、自然言語処理を専門とし、情報処理分野において30年以上にわたり実務に携わる。広告業界でキャリアをスタートし、総合広告代理店、大学研究機関、金融機関、大手SIer、テレビ放送会社を経て、2024年4月より現職。データ分析、AI導入支援、DX推進に関するコンサルティングに従事。東京都出身。
